今回は、テニス界において、昔から議論されている「ボレーは、振るのか?振らないのか?」という論点から始まる、ボレーの打ち方についてのお話です。
ボレーは、振るのか?振らないのか?
結論
この論点についての私の考えを先に申し上げますと、ボレーは振ります。
ラケットをどのように、どれくらい振るのか、ということは別に考える必要がありますが、基本的に、ボレーは、ラケットを振って打ちます。
ここで、最もボレーが上手い選手の1人と思われるフェデラーのボレーを見ておきましょう。
下の動画の10:11~10:34を見てみてください(再生ボタンを押すと、自動的に該当部分が再生されます。)。
Roger Federer and Stan Wawrinka Practice AT 2018 US Open
どうでしょうか。
フェデラーは、ボレーのとき、明らかにラケットを振っていますよね。
ラケットを振らなければ、ボールにエネルギーを加えることはできませんから、ボールのスピードを出そうとするのであれば、ラケットを振るというのは当然のことです。
このように、「ボレーは振る」という見解に対しては、「ボレーを振っていたら、速いボールに対応することができない」という批判があります。
しかし、速いボールが飛んできたら、ラケットの振り幅を小さくすれば良いだけであって、速いボールに対応することができないということはありません。
相手のボールがゆっくりなときは、しっかりとラケットを振ってボールに力を伝え、相手のボールが高速なときは、ラケットの振り幅を小さくして、正確にミートできるようにしましょう。
体重移動で打つ?
これに対して、「ボレーは、振らない」という見解は、「ラケットは振らず、体重移動で打つ」と主張します。
確かに、後ろから前に体を移動させれば、ラケットを振らなくても、一応、ボールを打つことはできますし、私自身も、ボールを慎重にコートに入れにいきたいときには、そのようなイメージでボレーをすることもあります。
しかし、体重移動だけで、十分なボールのスピードを出すことができるのかは疑問ですし、そもそも体重移動をする余裕がないときは、どうするのでしょうか。
少なくとも、世界のトッププロは、そのようなボレーの打ち方をしていません(私の見解は、ボレーを打つ際に、体重移動を行うこと自体を否定するものではありません。)。
ボレーのとき、ラケットは、どのように振るのか
結論
さて、では、ラケットは振るとして、次に、どのようにラケットを振るのか、という点が問題となります。
先ほど見ていただいたフェデラーは、どのように振っていたでしょうか。
テークバックでは、ラケットを打点の上にセットして、フォワードスイングでは、ボールにスライス回転(バックスピン)をかけるように振っていますね。
そうなのです。
このように、基本的には、ボレーは、スライスのスイングで打つものなのです。
ですから、ボレーのことを、「スライスボレー」と呼ぶこともあります。
ボレーをスライスで打つメリット
ボレーをスライスの打ち方で打つメリットとしては、次の2つが挙げられます。
メリット①
スライス回転の量、あるいは回転のかけ方を調節することにより、様々な球質のボールを打つことができる(ボールに緩急をつけることができる。)。
例えば、回転を少なくして、フラット気味の早いボールを打つことも、サイドスピンを加えたスライスをかけてバウンド後に横に曲がるボールを打つこともできます。
メリット②
ストロークの打ち方(トップスピン、スライス、サイドスピン)の他に、ボレー独自の打ち方を考える必要がないので、テニスというスポーツをいたずらに難しくせずに済む。
仮に、ボレーはスライスではないとすると、ストロークの打ち方とは別に、ボレーの打ち方というものを考えなければならなくなり、テニスが難しくなってしまいます。
トップスピンをかけて打つボレーがドライブボレーで、スライスをかけて打つボレーがスライスボレーである、と考えれば、テニスがやさしくなります。
スライスで打たない例外的な場合
このように、「基本的には」スライスの打ち方で打つべきなのですが、例外もあります。
例えば、次の動画でフェデラーが打っているような、バックハンドのハイボレーです。
Hot Shot: Federer Swats A Lob Away Nitto ATP Finals 2017 Round Robin
フェデラーの最初のボレーはスライスボレーですね(あえてドロップショット気味に打っています。)。
その次の、バックハンドのハイボレーは、ラケットを下から上に振り上げて打っていて、これはスライスボレーではありません。
このようなバックハンドのハイボレーは、バックハンドスマッシュと呼ばれることもあります。
それから、ネット間近のチャンスボールを、相手コートにたたきつけるように打つボレー(ダブルスの試合では、よく見られます。)も、スライスの打ち方ではありませんので、これも例外といえます。
まとめ
これまで解説をしてきたように、ボレーは、一部の例外的な場合を除いて、スライスのスイングで打ちます。
したがって、ストロークのスライスの練習をすれば、ボレーも上達することになります。
日本を代表するサーブ&ボレーヤーの鈴木貴男プロは、その著書『試合に勝つテニス 鈴木貴男のサーブ&ボレーレッスン』の中で、ストロークのスライスとバックハンドボレーについて、「スライスをマスターすれば、バックハンドボレーもマスターしたのと同然」*1と、おっしゃっています。
ボレーが上達せずに悩まれている方は、是非、ストロークのスライスの練習を積極的に行うようにしてみてください。
ただし、ボレーの際は、ストロークを打つときよりも時間的余裕がないことが多いので、ボレーは、ストロークのスライスよりも、スイング全体をコンパクトにする意識を持っていただくのが良いと思います。
*1:鈴木貴男『試合に勝つテニス 鈴木貴男のサーブ&ボレーレッスン』(実業之日本社、2008年)102ページ