今回は、フォアハンドストロークのグリップにまつわるお話の中編になります。
前回の記事で、フォアハンドストロークのグリップの種類を紹介しましたが、では、どのグリップが良いのでしょうか。
私は、イースタンからウエスタンの間であれば、どれでも良いと考えています。
この記事では、薄いグリップの代表であるイースタングリップと、厚いグリップの代表であるウエスタングリップを、いくつかの観点から比較してみたいと思います。
トップスピンのかけやすさと、ボールスピード
イースタングリップは、ウエスタングリップと比較すると、トップスピンをかけにくく(スピン量を増やしにくい)、その分、フラット気味のボールを打ちやすく、ボールのスピードを出しやすくなります。
ウエスタングリップは、その逆です。
すなわち、ウエスタングリップでは、トップスピンをかけやすく(スピン量を増やしやすい)、ボールのスピードを出しにくくなります。
これは、体の構造上、イースタングリップで握ったときは、ボールを打つ際に、手首の背屈と、それをニュートラルに戻す動きを使いやすく(したがって、ラケットヘッドをラケット面と「垂直」な方向に加速させやすい。)、他方で、ウエスタングリップで握ったときは、ボールを打つ際に、前腕の回外→回内の動きを使いやすい(したがって、ラケットヘッドをラケット面と「平行」な方向に加速させやすい。)ためです。
このことから、一般論としては、よりボールのスピードを出して、相手の時間を奪うことを重視するのであれば、イースタングリップの方が適していると言えます。
これに対して、ボールのスピードよりも、トップスピンをかけて打つことでエラーを減らすこと、すなわち、プレーの安定性を高めることを重視するのであれば、ウエスタングリップの方が適していると言えます。
もっとも、これは、あくまでも、両者を比較した場合の相対的な評価であって、熟練してくれば、イースタングリップで十分なトップスピンをかけることもできますし、ウエスタングリップで十分なスピードを出すことも可能となります。
イースタングリップのフェデラーやガスケが、強烈なトップスピンをかけてボールを打つこともありますし、ウエスタンよりも厚いグリップのジャック・ソックが、フラット気味の、すさまじく速いボールを打つこともありますよね。
体に近いボールと、体から遠いボールの打ちやすさ
一般的に、イースタングリップのような薄いグリップでは、インパクトで肘を伸ばし気味にした方が打ちやすく、ウエスタングリップのような厚いグリップでは、インパクトで肘が曲がるようにした方が打ちやすくなります。
一例を挙げますと、イースタングリップのフェデラーは、インパクトで右肘が伸びていますし、ウエスタングリップの錦織選手は、右肘が曲がっています。
このことから、イースタングリップでは、体から遠いボールを打ちやすく、体に近いボールは打ちにくくなります。
他方で、ウエスタングリップでは、体から遠いボールは打ちにくく、体に近いボールは打ちやすくなります。
したがって、イースタングリップの選手は、ボディーへ来たサーブをレシーブすることが難しくなり、ウエスタングリップの選手は、最適な打点で打つために左右に走る距離が長くなる傾向にあります。
高いボールと低いボールの打ちやすさ
一般に、イースタングリップでは高い打点で打ちにくく、ウエスタングリップでは低い打点で打ちにくいと言われます。
イースタングリップで高い打点の強打は難しい
イースタングリップで、頭の高さくらいの高いボールを強打するためには、トップスピンをかけながらラケットを体の左横に振りぬく「ワイパースイング」を高いレベルで習得する必要があります。
この点、ウエスタングリップあれば、頭よりも上のボールであっても、難しいことをせずに強打しやすくなります。
背が低く、技術の高くない子供たちが、自然に厚いグリップになっていくのは、厚いグリップの方が、自分の身長よりも高く弾むボールを打ちやすいためです。
もっとも、フェデラーを見ても分かるように、高い技術を身につければ、頭の高さのボールを強打することも可能になります。
ウエスタングリップで低い打点は難しい?
私は、ウエスタングリップで低いボールを打つのが難しいと言われていることについては、疑問を感じています。
私自身は、ウエスタンに近いセミウエスタングリップですが、低いボールを打つことが難しいと思ったことは一度もありません。
むしろ、高い打点よりも、低い打点の方が打ちやすく感じます。
また、ウエスタングリップの選手たちが、低いボールを打ちにくそうにしているところも、見たことがありません。
先ほども述べたように、ウエスタングリップは、ボールを打つ際に、前腕を回外させやすく、したがって、簡単にラケットヘッドを下げることができます。
ラケットヘッドを下げたところから、トップスピンをかけながら低いボールを持ち上げることができるのです。
確かに、前述のように、グリップが厚くなればなるほど、体から遠いボールは打ちにくくなりますので、その意味では、極端に厚いグリップでは、低いボール(すなわち、体から遠いボール)は打ちにくくなるかもしれませんが、これは、しっかりと膝を曲げて打つことで解決することのできる問題であって、特別に高い技術が要求されるというわけではありません。
極端に厚くはない、一般的なウエスタングリップであれば、「イースタングリップに比べると若干打ちにくい」という程度だと思います。
グリップチェンジのしやすさ
イースタングリップは、コンチネンタルグリップへのチェンジに時間がかからないのですが、ウエスタングリップでは、そのグリップチェンジに時間がかかるので、この点が、ウエスタングリップの最大の弱点と言われています。
ウエスタングリップが抱える問題点
バックハンドストロークが両手打ちの選手は、右手(利き手)をコンチネンタルグリップで握る選手が多いのですが、その選手達は、フォアハンドストロークの握りからバックハンドストロークの握りに移るとき、右手をコンチネンタルグリップにチェンジさせる必要があります。
また、バックハンドが両手打ちであるか、片手打ちであるかを問わず、スライスを打つ際には、コンチネンタルグリップへのチェンジが必要となります。
フォアハンドストロークの握りがウエスタングリップの選手は、これらの場合、上の図を使って説明すれば、人差し指の付け根の部分が接してる面が「5」(ウエスタン)から「2」(コンチネンタル)になるまで、ラケットを回転させなければならないことになります。
角度でいいますと、およそ140度、回転させることになります。
これに対して、フォアハンドストロークがイースタングリップの選手であれば、人差し指の付け根の部分が「3」(イースタン)から「2」(コンチネンタル)になるまで、およそ50度回転させるだけで済みます。
このように、ウエスタングリップは、イースタングリップに比べて、コンチネンタルへのチェンジにかなりの時間を要するということになります。
これは非常に大きなデメリットで、私も、レディポジションでは、フォアハンドのグリップで構えていますので、そこからバックハンドのグリップへのグリップチェンジが間に合わないことがあり、悩んでいました(特にレシーブのときに、間に合わないことが多くありました。)。
この点、錦織選手は、私よりも厚いウエスタングリップであるにもかかわらず(また、錦織選手も、常にフォアハンドのグリップで構えています。)、バック側に時速200キロをはるかに超える高速サーブが来ても、見事にグリップチェンジをしていて、そのグリップチェンジの速さには感動すら覚えます。
ウエスタングリップが抱える問題点の解決策
しかし、錦織選手のような達人ではなくても、このグリップチェンジの問題を解決する方法があります。
ヒントは、この方、日本代表のダニエル太郎選手です。
と言っても、ほとんどの方にとってはヒントにならないと思いますが・・・(笑)
グリップチェンジの方法の見直し
先ほどお話ししたように、私は、グリップチェンジが遅れることがあることに悩んでいましたので、よく鏡の前でグリップチェンジを速くする方法を考えていました。
すると、ある時、気付いたのです。
今まで、グリップチェンジの時は、ラケットを時計回り(右回り)に回していたけれど、そうではなく、反時計回り(左回り)にラケットを回転させれば、一瞬にしてグリップチェンジが完了するということに。
先ほどの図を使って説明すると、ウエスタングリップの人(私は、ウエスタンに近いセミウエスタンですが。)は、人差し指の付け根部分が「5」に接しているわけですが、そこからラケットを反時計回りに回転させ、「6」の面に接するようにすれば、コンチネンタルグリップになるということです。
回転させる角度は、わずか40度程度です。
それまで、グリップチェンジは、ラケットを時計回りに回転させなければいけないものだと思い込んでいました。
テニスの参考書には、そのようにグリップチェンジを行うものと書かれていましたし、実際、ほとんどの選手が、そのようにしていました。
しかし、ウエスタンないし、それに近いセミウエスタングリップの人であれば、ラケットを反時計回りに回転させる方が合理的ですし、それによって生じる不都合もありません。
強いて不都合なことを挙げるとすれば、このグリップチェンジの方法だと、フォアとバックで同じ面を使うことになるので、ストリングの消耗が早くなるということくらいです。
そうして、私は、自分の考えを信じて、ラケットを反時計回りに回転させる方法を練習することに決めました。
初めのうちは、これまでと反対にラケットを回すことに、かなりの違和感を感じましたが、1ヶ月後くらいには、違和感を感じることがなくなり、半年経つ頃には、完全に習得することができていたと思います。
その結果、グリップチェンジが間に合わない、ということは一切無くなりました。
私と同じ方法を採用しているプロ選手
その後、プロの中にも、私と同じように、反時計回りのグリップチェンジをしている選手がいるはずだと思い、グリップが厚い選手を対象に調査を始めました。
そこで発見したのが、ダニエル太郎選手です。
彼のフォアハンドはウエスタングリップで、私と同じ方法でグリップチェンジをしています。
彼のグリップチェンジを見たときは、「ついに見つけた!」という感じで、とても嬉しかったことを覚えています。
「これで、自分の生徒にも、自信を持って、このグリップチェンジを教えてあげることができる」と思いました。
そんなこともあり、私は、彼が今後、ますます活躍してくれることを期待しています。
小括
ラケットを時計回りに回転させる、一般的なグリップチェンジの方法を採用している場合は、グリップチェンジのしやすさという観点では、ウエスタングリップよりもイースタングリップの方が間違いなく優れています。
しかし、私やダニエル選手のようなグリップチェンジの方法を採用すれば、むしろ、ウエスタングリップの方がイースタングリップよりも優れていると言うこともできます。
グリップチェンジを間に合わせるために、とにかく練習を重ねて時計回りのグリップチェンジを高速化させるという選択も否定はしません。
しかし、これまで沢山練習をやってみたけど上手くいかない、と悩まれている方は、ラケットを反時計回りに回転させる方法を試してみてください。
まとめ
世界のトッププロの中に、イースタングリップの選手も、ウエスタングリップの選手もいることから分かるように、どちらのグリップであっても、超一流のレベルに到達することは可能です。
ただ、ウエスタングリップは、イースタングリップに比べてトップスピンをかけやすく、また、高い打点でボールを打ちやすいため、ウエスタングリップの方が、「やさしい(簡単な)」グリップと言えるかもしれません。