テニスをされている方の中には、ご自分でラケットのストリングを張られている方もいて、「ホームストリンガー」と呼ばれたりしています。
この記事では、そんなホームストリンガーの方、あるいは、これからホームストリンガーになろうとしている方に向けて、私がおすすめするストリングマシンをご紹介します。
ちなみに、正確には、ストリングマシンではなく、ストリンギングマシン(stringing machine)だと思うのですが、日本ではストリングマシンと呼ぶことが一般的ですので、この記事でも、ストリングマシンと呼ぶことにします。
私は、プロのテニスコーチですが、プロのストリンガーでもあります。
「自分の生徒には最高のストリンギングをほどこしたラケットでプレーして欲しい!」という思いのもと、ストリンギングに関しても腕を磨いてきました。オリンピックなど、トッププロが集まるトーナメントでストリンギングを担当されている方に指導を受けたりしながら、勉強・研究を重ねてきました。
ストリングマシンに関しても、これまで色々なマシンを使ってきました。
そんな経験を踏まえまして、おすすめのマシンを厳選しましたので、ご参考にしていただけますと幸いです。
ストリングマシンの種類
まず最初に、数多くあるストリングマシンの種類について、整理をして、ご説明します。
1.分銅式 / クランク式 / 電動式
ストリングマシンは、「どのような方法でストリングを引っ張るか」という観点から、3つの種類に分けることができます。
➀分銅式、➁クランク式(バネ式)、➂電動式、の3つです。
なお、分銅式マシンとクランク式マシンは、手動式マシンと呼ばれます。
➀分銅式
分銅式は、分銅(おもり)を使って、重力でストリングを引っ張ります。分銅は、棒に取り付けられていて、分銅の位置を変えることで、テンションを調整します。
GAMMA X-2
➁クランク式(バネ式)
クランク式(バネ式)は、手でクランク(ハンドル)を回して、ストリングを引っ張りますが、テンションの設定は、マシンに組み込まれているバネを伸び縮みさせることによって行います。
TOALSON X-STi
➂電動式
電動式は、コンピューターが、指定されたテンションで、自動でストリングを引っ張ります。
TOALSON X-1000L
2.固定クランプ / フライングクランプ
引っ張ってテンションをかけたストリングを、つかんで固定しておく器具を「クランプ(clamp)」といいます。
このクランプには、固定クランプとフライングクランプ(flying clamp)の2種類があります。
クランプは、通常は、ストリングマシンの「ターンテーブル(ラケットをセットする場所)」に固定されています。このクランプを、この記事では、「固定クランプ」と呼ぶことにします(英語では、fixed clamp と言われています。)。
これに対して、分銅式マシンの中には、クランプがターンテーブルに固定されていない物もあります*¹。クランプをターンテーブルに固定しないのは、ターンテーブルをできるだけ簡素化するためです。
このようなマシンでは、フライングクランプというクランプ(フローティングクランプと呼ばれることもあります。)を使用することになります。
*¹なお、ごく一部のクランク式マシンでも、フライングクランプを用いる物があります。
☝フライングクランプ(Klippermate)
なお、クランプには、「スターティングクランプ」と呼ばれる物もありますが、これは、ストリンギングを行う上で絶対に必要となる物ではなく、ストリンギングを効率的に行うための1つの道具です。
3.2点支持式 / 6点支持式
ストリングマシンには、ラケットをターンテーブルにセットする際に、2か所でラケットを支えるタイプのマシン(2点支持式)と、6か所で支えるタイプのマシン(6点支持式)とがあります。
上の写真の左側(GAMMA X-2)が2点支持式で、右側(GAMMA X-6)が6点支持式です。
ストリングは、縦糸(メイン)から先に張り始めますが、縦糸を張っていくことで、ラケットフェイスは、縦につぶれて横に広がろうとします。したがって、もしラケットの支えが無ければ、縦糸を張っている間に、ラケットフェイスは変形して壊れてしまいます。そこで、そのような変形を防ぐために、2か所または6か所の支えがあるわけです。
2点支持式のマシンは、左右方向からの支えがないので、横糸(クロス)を張る際に邪魔する物がなく、横糸を張りやすいというメリットがあります。しかし、ラケットの変形を2か所の支えだけで防ごうとするため、その2か所、具体的には、ラケットフェイスの上と下の部分に大きな負担がかかります。
そのようなラケットのフレームへの負担を分散させるため、6か所でフレームを支える6点支持式という物が存在します。6か所で支えるため、1か所にかかる負担は小さくなり、ラケットにやさしい構造になっているのです。
2点支持式に関しては、ラケットが破損するおそれがあると言わることがあります。ですが、2点支持式は、「2点」といっても、本当に「点」で支えているわけではなく、ある程度広い面積を持つサポーターでフレームを支える形になっています。したがって、2点支持式という理由だけで、ただちにラケットが破損するということは考えにくいです。「2点支持式のマシンを使って、ラケットが折れた」という話は、私は聞いたことがありません。ただし、フレームにヒビが入っているラケットや、フレームが劣化している古いラケットを張る場合は、当然、破損のリスクが高くなりますので、2点支持式のマシンは、そのようなラケットを張るのには適していないと言えるでしょう。
4.各種マシンの比較
上でご紹介した各種マシンを、ストリンギングの精度、安定性、ストリンギングの速さ(ストリングを張るのに要する時間)、価格の安さ、の4つの観点から比較すると、次の表のようになります。
比較の詳細については、後述しますが、ストリングをご自分で張ったことがない人には難解な内容となっていますので、読み飛ばしていただいても構いません。
ストリンギングの精度について
ストリンギングの精度というのは、例えば、マシンでテンションを50ポンドに設定したときに、実際に、50ポンドのテンションでストリングを引っ張ることができるかどうか、ということです。
分銅式とクランク式は、メモリを目で見ながら、手動でテンションの設定を行う必要がありますので、電動式に比べると、精度は劣ります。
また、フライングクランプは、2本(または3本)のストリングを同時に挟む構造となっていることから、フレームからやや離れた位置でクランプを固定しなければならないことがあります。クランプの位置がフレームから離れていると、フレームとクランプの間のストリングにはテンションがかかっていないことになるので、その一本は正確なテンションでは張り上がらないことになります。
そのため、分銅式マシンの中でも、フライングクランプを使用するマシンは、固定クランプを使用するマシンと比べて、精度が劣ります。
また、クランク式は、いったんクランクを回すと、指定のテンションの出たところで自動的にロックがかかり、それ以上、クランクを回すことができなくなります。そのため、横糸(クロス)を張るときに、ストリングの「たるみ」を取る作業をしている最中に、指定のテンションで引っ張り続けるということができません。したがって、「たるみ」を取ることで、その横糸のテンションは下がりますので、実際には、指定のテンションでは張り上がらないということになります。
このことから、クランク式の精度は、固定クランプを使用する分銅式マシンよりも劣ると評価することができます。
なお、クランク式は、マシンを使い続けているうちにバネが変形をしていきますので、「テンション・キャリブレーター」という道具を使って、指定したテンションがきちんと出るかどうかを定期的にチェックして、問題があれば、マシンの調整を行う必要があります。
☝テンション・キャリブレーター(GAMMA)
なお、フライングクランプを使用する分銅式マシンやクランク式マシンでは、正確なテンションで引けないことを見越して、あらかじめ少し高いテンションを指定する必要があるわけですが、実際に張り上がったストリングのテンションがどれくらいになっているかということを把握することは簡単ではありません。
ストリンギングの安定性について
ここでの「安定性」というのは、「一貫性」という意味で、いつも毎回、同じテンションで張ることができるかどうか、ということです。
毎回同じテンションで張り上げることができるかどうか、ということは、競技者にとっては、精度よりも重要なポイントだと思います。精度が低く、指定のテンションよりも低いテンションでしか張れていないとしても、それがいつも同じテンションなのであれば、プレーヤーは、いつも同じ感覚でプレーできるからです。
分銅式とクランク式は、メモリを目で見ながら、手動でテンションの設定を行う必要がありますので、安定性の点でも、電動式に劣ります。
また、クランク式は、「テンション・キャリブレーター」を利用して、正しいテンションで引けるように随時マシンの調整を行わないと、ストリンギングの安定性が保つことができません。
ストリンギングの速さについて
ストリンギングの速さというのは、ストリングを張るのに、どれだけの時間がかかるか、ということです。
この点については、分銅式は、ストリングを1回引っ張るたびに、分銅の付いた棒が地面に対して平行になるように調整する必要がありますので、クランク式よりも、時間がかかります。
電動式は、テンションの調整も、ストリングを引っ張るのも、ボタンを押すだけですから、手動マシンと比較して、圧倒的に速く張り上げることができます。
価格の安さについて
価格に関しては、電動式が最も高く、フライングクランプを使用する分銅式が最も安くなります。
おすすめのストリングマシン(ガット張り機)
この記事では、皆さんの要望に応じて、3つのおすすめのマシンをご紹介します。
1.「自分でストリングを張って、そのラケットでプレーできるのであれば、それで十分です。細かいことは気にしません。価格が最優先です。」という方におすすめのマシン
「クリッパーメイト(Klippermate)」をおすすめします。
※このマシンは、2020年6月現在、日本では、兵丹島というお店でのみ取り扱われているようです。このお店は、yahoo!ショッピングに出店されています。
クリッパーメイトは、Klipper USAというアメリカのメーカーの製品です。
フライングクランプを使用するタイプの分銅式マシンです。
ストリンギングの精度は期待できませんが、とにかく価格が安いです。
アメリカでは、メジャーなマシンで、ユーザーも多いです。
作りは、しっかりしていると評判ですし、その上、5年間保証がついてきますので、長く使用できると思います。
Klipper USAのウェブサイトを見ると、クリッパーメイトを使ったストリングの張り方なども分かります。
⇨ https://klipperusa.com/
2.「電動式マシンだと、予算オーバーになるので、手動式マシンが希望です。でも、せっかく買うのだから、しっかりストリングを張れるマシンがいいです。」という方におすすめのマシン
「CB-10 PRO」をおすすめします。
CB-10 PROは、フランスのテニスショップ・メーカーであるTENNISPROが作っているストリングマシンです。
ストリンギングにおける高い精度を要求するとなると、手動式マシンの中では、固定クランプを使用するタイプの分銅式マシンを選ぶ必要があります。
CB-10 PROは、まさにその条件に当てはまるマシンです。
また、6点支持式のマシンですので、ラケットの破損を心配する必要もありません。
さらに、価格も比較的安いです。
CB-10 PROの耐久性については、情報が少なく、はっきりとしたことは分かりませんが、3年間保証がついていますので、安心して使用できると思います。
TENNISPROの公式サイトのページは、こちらです。
⇨ https://www.tennispro.eu/cb-10-pro-stringing-machine-8397.html
なお、当初、CB-10 PROの他に、GAMMA X-6FCというマシンもおすすめしたいと考えていました。
Gamma X-6FC Tennis Stringing Machine
GAMMA X-6FCは、GAMMA Sportsというアメリカのメーカーの製品で、このマシンも、固定クランプを使用する分銅式マシンです。
ただ、GAMMAのストリングマシンは、2020年6月現在、日本では正規販売されていないようで、日本国内で購入することができるのは、Amazonで販売されている並行輸入品しかありません。そのAmazonでの販売価格は、本国アメリカでの価格の2倍近い価格に高騰してしまっていて、割高感があります。
そのため、現時点での私のおすすめは、CB-10 PROとさせていただきます。
3.「将来的には、テニスショップで張ってもらうのと同等の仕上がりを実現したいので、電動式マシンが欲しいです。」という方におすすめのマシン
GOSEN(ゴーセン)の「オフィシャルストリンガー20EX」をおすすめします。
このオフィシャルストリンガー20EXは、言わずと知れた日本を代表するストリングメーカーであるGOSENの最上位機種です。
ちなみに、私は、オフィシャルストリンガー「10EX」という1つ前のモデルを使用しています。
私は、このオフィシャルストリンガーは、すべての電動式マシンの中で、最もコストパフォーマンス(性能と価格の比)が高いと考えています。
これから、その根拠をご説明します。
一口に、電動式マシンと言っても、その性能や価格には、かなりの幅があります。
まず、性能についてですが、ストリングマシンも、パソコンと同じようなもので、見た目には大きな違いがなくても、ストリングを引っ張るコンピューター、ターンテーブル、それらを支えるスタンドなどの性能には差があるのです。
数多くある電動式マシンの中で、どのマシンの性能がすぐれているのかということを私達消費者が客観的に判断することは難しいと思います。
しかし、GOSENのオフィシャルストリンガーは、プロテニスプレーヤーのラケットのストリンギングにも使われていることから、正確かつ安定的なストリンギングを実現するという性能は最高レベルと考えられます。
ちなみに、2019年のデビスカップにおいて、日本代表選手のラケットのストリンギングに使用されていたのも、GOSENのオフィシャルストリンガーです。
そして、このような高性能マシンでありながら、その価格は、他のメーカーに比べてダントツで安いです。
他の有名メーカーの最上位機種には、100万円前後の値段がつけられていますので、GOSENのオフィシャルストリンガーは、その半額ないし3分の1以下の値段ということになります。
GOSENのオフィシャルストリンガーよりも高価なマシンには、台の高さや傾きを電動で変えられる機能がついていたり、モニターにタッチパネルが採用されていたりしますが、それは、ストリンギングの仕上がりに直接的な影響を与えるものではありません。
私は、以前、バボラの高級マシンを使用していましたが、GOSENのオフィシャルストリンガーよりもすぐれているとは感じませんでした。
以上のようなことから、GOSENのオフィシャルストリンガーのコストパフォーマンスは極めて高いと考えられ、これが、私がこのマシンをおすすめする理由です。
GOSENの公式サイトのページには、マシンのスペック等の詳細が書かれています。
⇨ http://www.gosen-sp.jp/string/?id=1578472734-653676
まとめ
この記事では、私がおすすめするストリングマシンとして、クリッパーメイト(Klippermate)、CB-10 PRO、オフィシャルストリンガー20EXをご紹介してきました。
その中でも、どれが一番おすすめかと尋ねられたら、「オフィシャルストリンガー20EXです」とお答えします。
最初に手動式マシンを買って、しばらくしてから電動式マシンに乗り換える方も多いのですが、それならば、最初から電動式マシンを買ってしまうのも得策だと思います。
ストリンギングも、テニスのプレーと同様、一朝一夕で上手くなるものではありません。ビギナーのホームストリンガーの方が、プロのレベルに到達するまでには、おそらく、かなりの歳月を要すると思います。
しかし、ストリンギングも、生涯の趣味となりうるものですから、ゆっくりと時間をかけて、ストリンギングの上達を楽しむというのも良いのではないでしょうか。