この記事では、ジュニアアスリートの指導を専門にしている私が、子供のバランス能力(バランス感覚)を効率的に鍛えることができる遊具(おもちゃ)をご紹介します。
「バランス能力」は、「走る」、「投げる」、「打つ」といった基本的な動作の土台となる、あらゆるスポーツにおいて極めて重要な能力です。
バランスをつかさどる神経系(脳や脊髄など)は、8歳頃まで急速に成長して、その後も緩やかに成長を続けていきますが、12歳前後に成長が止まると考えられています。
そのため、将来的に高いバランス能力を身に付けるためには、12歳頃までに、バランス能力を高めるトレーニングを行うことが大切になります。
トレーニングとは言っても、子供のバランス能力を向上させるトレーニングにおいては、高い負荷をかける必要はありません。子供にとっては、バランス能力が自然と養われるような「遊び」をすることが、最良のトレーニングとなります。
バランス能力を鍛えるためには
まず最初に、以下でご紹介する遊具が、なぜバランス能力の向上につながるのかを理解していただくために、「バランス能力」の意味と、それを向上させる方法について、簡単に説明しておきましょう。
「バランス能力」とは、姿勢の安定を保つ能力ということができます(大築, 2011)。姿勢が崩れないようにしたり、一旦崩れた姿勢を立て直したりする能力です。この能力は、姿勢の安定を難しくさせる状況を経験し、それを克服することで、向上していきます。姿勢の安定を難しくさせる状況を経験し、それを克服する過程で、姿勢の安定を担う神経系(脳や脊髄など)のネットワークが強化され、また、姿勢の安定を助ける筋力も強化されるのです。
そのため、バランス能力を高めるためには、様々な「姿勢の安定を難しくさせる状況」を経験することが必要となります。
かつての子供たちは、舗装されていないデコボコの山道を走り回ったり、木登りなどをして、多様な「姿勢の安定を難しくさせる状況」を経験してきたわけですが、現代においては、そのような経験ができる子供たちは、決して多くありません。
しかし、現代には、誰でも「姿勢の安定を難しくさせる状況」を経験することのできる便利な遊具がありますので、悲観する必要はありません。むしろ、そのような遊具を使うことで、より手軽にバランス能力を鍛えることが可能になったといえます。
バランス能力を鍛えることができる器具(おもちゃ)
今回は、自宅の中でも、楽しく、かつ効率的にバランス能力を鍛えることができる、3つの遊具をご紹介します。楽しくなければ、その遊びは長続きしませんので、「楽しさ」も重要です。
1.トランポリン
まず、ご紹介したいのが、「トランポリン」です。
トランポリンの効果
トランポリンの上は、足元がユラユラと揺れる不安定な場所ですから、地上と比較して、姿勢を安定させることが難しくなります。
したがって、トランポリンの上で、姿勢をキープしながら飛び跳ねることは、効果的なバランストレーニングとなります。
まだジャンプが上手くできない幼児にとっては、トランポリンの上で足踏みをするだけでも、バランス能力の向上が期待できるでしょう。
なお、トランポリンの上で飛び続ける運動は、有酸素運動になりますので、心肺機能を高めることもできます。
おすすめのトランポリン
家庭用のトランポリンには、「スプリング式」のものと「ゴム式」のものの2種類があります。
スプリング式のものは、反発力が高い(高く飛べる)、耐久性が高い、といったメリットがあります。
他方で、ゴム式のものは、音が静か、体重が軽い子供でも飛びやすい、といったメリットがあります。
子供のバランス能力を鍛える、という目的で使用するのであれば、体重の軽い子供でも使用できるゴム式を選択することをおすすめします。スプリング式のトランポリンですと、体重の軽い子供では、トランポリンのネットを十分に沈みこませることができず、十分なトレーニング効果を得られない可能性があります。
おすすめのトランポリンは、エアロライフ(AEROLIFE)のホームジャンピングというトランポリン(ゴム式)です。
エアロライフは、長年トランポリンを作り続けているブランドです。エアロライフのトランポリンは、購入者からの評価も高いです。
なお、エアロライフは、スプリング式のトランポリンも販売しています。ゴム式のトランポリンと見た目が似ているため、どちらであるかをきちんと確認した上で購入するようにしましょう。
2.バランスボード
次にご紹介するのは、「バランスボード」です。
世間で、バランスボードと呼ばれているものは、たくさんあるのですが、私がおすすめするのは、円柱の上にボードを乗せてバランスを取るタイプのものです。このタイプのバランスボードが、一番楽しいと思います。
バランスボードの効果
バランスボードは、転がりやすい円柱の上にボードが乗っているわけですから、そのボードの上で姿勢を安定させることは、地上と比較して、かなり難しくなります。
円柱の上で、ボードが水平になるようにするためには、常に体を調整し続ける必要があるので、難易度は高めですが、その分、高いトレーニング効果を期待することができます。
バランス能力があまり発達していない子供ですと、ボードの水平を保つことは難しいですが、仮にボードの端が地面に着いてしまうことがあったとしても、傾いたボードから転げ落ちないようにするだけで、十分にバランストレーニングとしての効果を得ることができます。したがって、バランスボードは、低年齢の子供のトレーニングにも適していると考えています。
おすすめのバランスボード
Indo Board(インドボード)のバランスボードであれば、その品質に間違いはありません。ボードの上で大人が飛び跳ねても壊れないほど、頑丈に作られています。
Indo Boardは、アメリカのブランドで、世界で最も有名なバランスボードメーカーです。1975年に、円柱にボードを乗せるタイプのバランスボードを発明したのが、Indo Boardの創設者であるHunter Joslin(ハンター・ジョスリン)という方です。
バランスボードは、熟練してくると、次の動画で紹介しているような使い方もできます。
なお、バランスボードは、床の上で直に使用すると、床に傷がつきますので、ヨガマットやカーペットの上で使用することをおすすめします。
3.バランススクーター/電動スケート
最後にご紹介するのは、「バランススクーター」と「電動スケート」です。
バランススクーターや電動スケートは、体の重心を移動させることによって、操縦するマシンです。体の重心を前に移動させれば、マシンも前に進み、体の重心を後ろに移動させれば、マシンも後ろに進みます。
なお、バランススクーターは、「ミニセグウェイ」と呼ばれることもありますが、「セグウェイ」はアメリカのセグウェイ社によって登録された商標であり、セグウェイ社の商品でない物を「ミニセグウェイ」と呼ぶことは、適切ではないと考えます。
バランススクーター/電動スケートの効果
バランススクーターや電動スケートに乗るということは、いわば車輪の上のボードに乗るということになりますが、そのボードは、自動的に水平に保たれるようにプログラムされています。そのため、バランスボードのように、常に体を動かし続ける必要はありません。
ただ、体の重心が少しでも動くと、バランススクーターや電動スケートは動き出します。バランススクーターや電動スケートが動くと、その上に乗っている人には慣性力(乗り物の進行方向と逆向きの力)が働きますので、その慣性力に抵抗して姿勢を保つ必要があります。その意味で、バランススクーターや電動スケートの上で姿勢を安定させることは、地上にいる場合と比べて難しくなります。
したがって、バランススクーターや電動スケートに乗ることで、バランス能力を向上させることができると考えられます。
おすすめのバランススクーター/電動スケート
私がおすすめしたいのは、Segway Drift W1という電動スケートです。
これは、アメリカのセグウェイ社の商品です。
バランススクーターよりも、左右の車輪が分離している電動スケートの方が、色々な走行ができるので、遊び方の幅が広いといえます。
もっとも、Segway Drift W1は、左右の車輪が分離している電動スケートですが、両輪を接続するジョイントバー(セグウェイ ドリフト W1専用ジョイントバー)も販売されていて、そのジョイントバーを使用すると、バランススクーターとして遊ぶことができますので、一石二鳥です。
上の動画で見られるような走行は、簡単にはできませんが、練習をすれば、子供でもできるようになると思います。ちなみに、セグウェイ社によるSegway Drift W1の推奨年齢は、「6歳以上」となっています。
なお、初めてバランススクーターや電動スケートに乗る場合は、それらのマシンがグラついてしまって、ただマシンの上に立つことだけでも難しいかもしれません。その理由は、足の力でマシンをコントロールしようとしてしまうからだと思います。私も、初めてSegway Drift W1に乗ったときは、グラつくマシンを足の力で安定させようとして、かえってグラついてしまうという有様でした。足の力は抜いて、体の重心を安定させるように意識すると、上手にマシンの上に立つことができます。
まとめ
子供のバランス能力を鍛えるための遊具(おもちゃ)として、➀トランポリン、➁バランスボード、➂バランススクーター/電動スケートを紹介してきました。
トランポリンは、難易度が低く、小学校入学前の幼児でも遊びやすいです。
バランスボードやバランススクーター/電動スケートは、難易度が高いので、小学生になってからでないと乗りこなすことは難しいと思いますが、色々な遊び方ができるので、長い間楽しむことができると思います。もちろん、大人でも楽しめます。個人的には、電動スケートが一番楽しいです。バランススクーターや電動スケートは、公道での利用が禁止されていますが、公園などでは使用できますので、自宅の中だけでの走行では物足りないという場合は、外で思い切り遊んでください。
ただし、これらの遊具を使用すると、バランス能力を効率的に鍛えることができる一方で、バランスを崩して転倒し、ケガをする危険もありますので、各遊具の説明書に書かれている注意事項を守って遊ぶようにしましょう。
<参考文献>
■大築立志・鈴木三央・柳原大編著『姿勢の脳・神経科学―その基礎から臨床まで―』市村出版、2011年、pp.1-20
■宮下充正『子どものときの運動が一生の身体をつくる』明和出版、2010年